新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るう中、SNSで話題となり、多くのメディアでも紹介されるなど注目を集めてきたのが、幕末の熊本沖に現れ、疫病について予言したと言われる謎の妖怪「アマビエ」。
そんな「アマビエ」を6名のアーティストが再解釈し、「現代のアマビエ」としてアートで表現する「アマビエ・プロジェクト~コロナ時代のアマビエ~」が、ところざわサクラタウンの角川武蔵野ミュージアム(埼玉・東所沢)にて、リレー形式で開催されています。
「アマビエ・プロジェクト~コロナ時代のアマビエ~」第4弾:荒神明香『reflectwo(リフレクトゥ)』

第4弾は、美術作家・荒神明香(こうじん・はるか)さんの『reflectwo(リフレクトゥ)』。川面に映った景色に着想を得て、造花を素材として制作された作品です。
荒神さんは日常の風景から直感的に抽出した「異空間」を、美術館等の展示空間で現象として再構築するインスタレーション作品を展開されているアーティスト。

個人でも東京都現代美術館、サンパウロ近代美術館など、国内外で作品を発表しているほか、2013年より現代アートチーム目[mé]としても活動開始。目[mé]としての活動に、「たよりない現実、この世界の在りか」(資生堂ギャラリー)、「 おじさんの顔が空に浮かぶ日」(宇都宮美術館館外プロジェクト)、「非常にはっきりとわからない」(千葉市美術館)、「まさゆめ」(「Tokyo Tokyo FESTIVAL」内プロジェクト)などがあり、2018年には第28 回タカシマヤ文化基金美術賞も受賞されています。
そんな、国内外から注目を集める荒神さんに、今回の参加作品『reflectwo』に込めた思いを聞きました。

――「アマビエ・プロジェクト」へは、どのような経緯で参加されることになったのでしょうか?
神野真吾さん(角川武蔵野ミュージアム美術部門のアートディレクター)からお話を頂いたのですが、「現代を生きるアーティストに“アマビエ”を、別の形で解釈してほしい」というお題が興味深いと思い、参加を決めました。
――そんな依頼を受けて今回荒神さんが出品されたのが、ご自身の代表作とも言える『reflectwo』でした。あらためてどのような作品なのか、教えてください。
『reflectwo』は大学生の頃散歩している際に見た、利根川の水面に映った風景に着想を得た作品です。
水門が閉まっているのか潮の関係なのか、深夜2時頃に必ず川の流れが止まる時間があるんですが、ぴたっと水面が止まったときに、植物のシルエットや向こう岸の景色が、水鏡のようにきれいに対照に映っていて。それが一つの塊としてぽんっと宙に浮いているみたいに見えたんです。
それを見たときに「怖さ」や、景色の圧倒的な「存在感」を感じて、思わず首を横にして、景色を縦にしてみたんです。そうすると、それまでただの景色だったものが、その塊が巨大な生物のようにも、巨大なバロック調の柱が空高くまで伸びているようにも見えて。今、自分が対峙(たいじ)しているものは一体何なんだろう…と思ったんです。
うまく言葉にできませんが、そこには「景色の持つ存在感と自分自身が対峙している」という感覚が強くあって。この感覚をもとに作品を制作しました。
――『reflectwo』はどのような点で「現代のアマビエ」となり得るのでしょうか?
コロナ禍で、死生観や、それによってこの世界との密接な繋がりを感じたことが、“アマビエ”や作品『reflectwo』につながると思いました。日常のすぐ側に、死の境界線があるということを認識したり、存在を揺るがすような景色と対峙したり、目の前で起こっていることと向き合い、表層にある「意味」を超えた存在感や死生観と対峙したときに、現れてきた象徴的なかたちが、“アマビエ”であり、『reflectwo』であると思っています。…お話をくださった神野さんもどこかつながりを感じてくださっていたようです 。

――カラフルな造花を使用した、目にも鮮やかな作品ですね。
そうですね。水鏡のように反転した風景を作るために工業製品なども含めて、いろいろな素材で実験した結果、「有機的な形でありながら人工的」である造花がしっくりきたので、造花の花びらを一枚一枚分解し、貼り合わせて風景を描いています。
――これまでにもサンパウロ近代美術館、上越新幹線「現美新幹線」などに展示されてきた『reflectwo』ですが、今回の角川武蔵野ミュージアムでの展示方法はいかがですか?
いつもは水平方向、普段通りに景色を見たときの方向で展示させてもらっていたのですが、今回は縦方向で展示しています。そもそもこの作品は「思わず顔を横にして、風景を縦に見た」という経験から着想を得ているので、縦方向にしたことで、作品がより象徴化され、そのことで物体(作品)と自分自身が対峙している感じが強調されたと思います。
――これから作品を鑑賞される方に、メッセージをお願いします。
今、いろいろと苦しい、大変な時期でもあると思うんですけど、そういった中で心を開放させてくれるような展示になればいいなという思いで作りました。
ゆっくりと景色を見るような感覚でこの作品と向き合ってもらったときに、どんなことが跳ね返ってくるかを楽しんで感じていただけたらと思います。
