2022年03月22日 16:00

    自分にとっての“本物の気持ち”とは? いま話題のミステリ作家・逸木裕による「イミテーション・ガールズ」を試し読み

     

    KADOKAWAが運営する文芸マガジンサイト「カドブン」の楽しみ方をお伝えする第3回。今回は、逸木裕さんの最新作『五つの季節に探偵は』に収録され、日本推理作家協会賞〈短編部門〉の候補作にもなった短編「イミテーション・ガールズ」の試し読みをご紹介します。

    「イミテーション・ガールズ」は、子供の頃から何かに熱中することを知らない女子高校生・みどりが、ある出来事をきっかけに、“本物の気持ち”に気付くという物語。短編ミステリの楽しさを存分に味わうことができるのはもちろん、みどりと同じような経験をしたことがあるという方は、その体験やその後の人生に思いをはせながら楽しむことができるのではないでしょうか。

    逸木作品に欠かせない重要キャラクター・みどりの原点に迫る短編「イミテーション・ガールズ」

    著者・逸木裕さんは、2016年に「虹になるのを待て」で第36回横溝正史ミステリ大賞を受賞すると、同年、受賞作を『虹を待つ彼女』に改め刊行し、小説家デビュー。以降、ミステリ界の気鋭として活躍し、2019年に「イミテーション・ガールズ」が第72回日本推理作家協会賞〈短編部門〉候補に。そして先日、同じく『五つの季節に探偵は』に収録されている「スケーターズ・ワルツ」が、第75回日本推理作家協会賞〈短編部門〉にノミネート(発表は2022年4月25日[金]予定)されるなど、いま話題を集める小説家です。

    『虹を待つ彼女』では人工知能を題材にするなど、最先端のテクノロジーを取り入れる作風が特徴の逸木さんですが、『五つの季節に探偵は』では香道やクラシック音楽などをモチーフに使用し、それまでのイメージを一変させます。それでも、一編ごとに異なるミステリ手法を用い、ラストのどんでん返しは健在。あたたかみのある雰囲気を持ちながらも切れ味鋭く、短編ミステリの楽しさを余すことなく味わえる一冊となっております。

    カドブンでは、そんな『五つの季節に探偵は』に収録される「イミテーション・ガールズ」と「解錠の音が」が全文公開されています。今回試し読みする「イミテーション・ガールズ」の主人公は、逸木さんのデビュー作『虹を待つ彼女』や3作目『星空の16進数』にもすでに登場している主要キャラクター・みどりで、そんな彼女の原点が分かるという意味でも重要な物語となっています。

    女子高校生が探偵のまね事を通じて感じた“本物の気持ち”とは?

    子供の頃から何かに熱中したことがなく、どこをとっても「それなり」の自分自身のことを<常温の水道水>と表現する高校生の榊原みどりは、ある日、父親が私立探偵ということもあって、クラスメートの本谷怜から面倒な相談を持ち掛けられます。はじめは断ろうとしたみどりでしたが、「学校もみどりの家も、全部燃やしてやる」と脅され、さらに、以前気まぐれに怜を窮地から救った過去を引き合いに出されたこともあり、渋々その依頼を受けます。その依頼とは、自分がいじめを受けていることをまともにとりあってくれない学年主任・清田先生の弱みを調べてほしいというもの。怜はそれをネタに使って、清田にいじめを解決させようと考えたのでした。みどりは仕方なく調査を開始。しかし、調査の先に見えてきたものは、人の身勝手さや狡猾さが浮き彫りとなる結末でした。

    ところが、この探偵のまね事を通じて、みどりの心境に変化が生まれます。その兆しを感じるのが、数度に及ぶ清田の尾行の結果を怜に報告している場面にあります。

    〈人間〉が、見えている。
     上手く言えないが、そんな感じがした。爽やかな若手教師としての表皮をめくった奥にある、彼の素の〈人間〉。匂い立つようなオスとしての魅力を放つ清田先生を見ていると、彼の本質がこちらにある感じがした。
    (中略)
     怜の要求はしつこく、わたしはなかなか調査をやめさせてもらえなかった。わたしの家を含めてあちこちを燃やすという彼女の話を、恐れていたのは確かだ。でも、それ以上に。
     わたしは、探偵というものを楽しんでいた。
    変装をし、尾行をし、写真を撮る。透明になり、覗き穴から世界を見つめ、ふと発生する隙間に顔をねじ込み、その奥に潜む〈人間〉を見る。甘美で、密(ひそ)やかで、背徳的な愉悦。趣味が悪いと自分でも思う。でも、そこには、抗(あらが)いがたい魅力があった。」(試し読み#5)

    みどりの「<人間>を見る」感覚は、物語の結末を迎える頃には鋭利な刃物のような切れ味を持つまでに洗練されます。そんなみどりがラストシーズンで怜に言い放った一言はまさに痛快!

    そして、「隠されたものを見つめる快楽」を覚えたみどりは、「あの調査は、楽しかった。その気持ちだけは、本物だ」(試し読み#9)という感慨に浸ります。その快楽は、熱中することを知らなかったみどりを突き動かし、彼女は自分だけの熱中を求めて踏み出そうとします。そんなみどりの決意を見届けたところで、物語は幕を閉じます。

    短編ミステリの面白さを存分に楽しみながら、ひとりの人間の成長を追いかける! 続きはぜひ同書で

    『五つの季節に探偵は』は短編集でありながらも、みどりの人生を追う長編という側面も持つ作品でもあります。その後、みどりは父親が経営する探偵事務所で働き始めますが、そこでは、自分の中に芽生えた快楽を抑制できずに無邪気に余計な真実まで暴いてしまったり、後輩を持つことでひとりの人間として成長する姿が描かれています。そんな彼女の活躍(?)ぶりは、ぜひ同書でお楽しみください。

    さらに、カドブンでは、逸木さんへのインタビュー記事やミステリ評論家・千街晶之さんによる作品レビューも公開中。こちらもあわせてご覧ください。

    『五つの季節に探偵は』より「イミテーション・ガールズ」(全文公開)
    https://kadobun.jp/trial/itsutsunokisetsunitanteiwa/

    『五つの季節に探偵は』より「解錠の音が」(全文公開)
    https://kadobun.jp/trial/kaijounootoga/

    精緻でビターなミステリ連作短編集『五つの季節に探偵は』&万華鏡のような青春ミステリ『星空の16進数』。2作刊行記念、逸木裕インタビュー
    https://kadobun.jp/news/award/1yge05ixy18g.html

    秘密を暴かずにいられない探偵の物語――逸木 裕『五つの季節に探偵は』レビュー【評者:千街晶之】
    https://kadobun.jp/reviews/entry-45177.html

    『五つの季節に探偵は』作品紹介

    ◆カドブン
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